「君はよく働いてくれた、だがクビだ」 とは日米共通
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君はよく働いてくれた、だがクビだ 昔、私が米国企業の東京支社で働いていた時、その米国本社にある日本人が勤務していました。仮にその方を鈴木さんとしましょう。鈴木さんは米国本社の採用で現地のアメリカ人と同様の職務を担い、特に日本のビジネスに関するミッションがあったわけではないのですが、やはり米国在住とはいえ日本人であることを活かし、日本関連のビジネスで自分の優位性を示そうと私を含め東京と積極的に仕事上の関わりを持とうとしていました。
でも、鈴木さんを介すと何事も厄介になるので、私は必要な時には本社の然るべき部署と直接やり取りするようにしていました。もし鈴木さんに頼めば物事がすんなり運ぶのなら日本人が本社にいるのは頼もしいのですが、残念ながら鈴木さんとは距離を置いた方がいい、と私は思っていました。 ある日の夜、鈴木さんから東京にいる私の自宅に電話がかかって来て、会社をクビになったことを知らせてくれました。当時、鈴木さんはよく米国が勤務時間こちらの夜の時間帯にオフィスから私の自宅に電話して来ていたので失職を知らせ、同僚のよしみで(?)今後も連絡を取り合おうと言って来たのでした。 米国企業でも本当の解雇理由を告げない 「君はよく働いてくれた。でも君の仕事は他の人がやっているから、我社はもう君を雇用し続けることは出来ない」と鈴木さんは上司に言われたそうです。それを聞いて私は、その解雇理由は建前だなあ、アメリカでも社員をクビにする時には感情を損ねないために本当のことを言わないんだなぁ、と感心しました。鈴木さんに対する周囲の評価は厳しく、東京にいる私でさえ関わり合いになりたくない存在だったので、米国本社ではいつクビになってもおかしくなかったのですが、鈴木さん本人にそうした認識はありませんでした。 でも鈴木さんは、仕事が出来ないからクビになったとは努々思わず、会社の組織上の都合で辞めさせられたと信じていました。アメリカでは本当のことを言わないのも新たな発見でしたが、それを鈴木さんが真に受けているのもお目出度いけど、誰しも自分が思いたいように思うのだから当然かも、というのもまた新たな発見でした。 日本の会社でもクビになる それから何年も経って、私が人材会社を始めてから、日本にある日本企業で外注として働いているアメリカ人がその会社との契約を切られたと同業者つながりで耳にしました。仮にそのアメリカ人をジョンさんとしましょう。ジョンさんの仕事ぶりはかなり不評で、外注先企業の社員や外注他社の職員からも文句が出て、仕事が出来ず態度が悪いと私にも聞こえて来る程でしたから、契約を切られても当然だったのでしょう。 偶然、私はジョンさんと会う機会があり、その話が出ました。ジョンさんがその日本の会社でクビになった時、その日本企業の上司はジョンさんに、「君はよく働いてくれた。だけど予算の関係で契約は終了しなければならない」と言ったそうです。日本の会社では外注とはいえ契約を途中で切るのは大変なことですから、本当の解雇理由を告げないのも理解出来るのですが、驚いたことに(またしても!)、ジョンさんはそれを真に受け、自分の仕事ぶりが悪くてクビになったとは思ってもいませんでした。 建前の解雇理由、それを真に受けるのも日米(万国?)共通 米国企業でも日本企業でも、クビにする時に本当の理由を言わないのはとても興味深いですね。よく、日本では本音と建前を使い分けるが、アメリカ人には建前などなく、思ったことを率直に話すなんて言われますが、アメリカ人だって常に本音を言っているわけではありません。アメリカに限らず世界の他の地域でも、日本人のように思ってもいないことを言うことはよくあり、誰だって常に本心を語っているとは限らないのです。 それにしてもアメリカでも日本でも、本当の解雇理由を告げず、アメリカ人も日本人もその建前を真に受けるのは非常に興味深いですね。日本人は建前の存在が当たり前だから用心する習性が身につき、他国の人より額面とおりに受け取ることは少ないと思ったのですが・・・。建前は平穏な人間関係を保つために必要なので、世界中の何処にも存在するのは納得ですが、建前上の解雇理由を自分の都合のいいように解釈し、自分の考えたいように考える傾向も万国共通なのでしょう・・・。 労働市場に流動性があれば、転職して新たな道が開ける また、ある会社で何らかの理由でクビになったとしても、労働市場に流動性があれば、別の会社に転職することも可能です。仕事が出来ないからクビになる場合もあれば、それ以外の様々な理由で失職することもあるので、いずれにしてもクビになったら次の職を見つけなければなりません。日本の労働市場は硬直的で非効率なので、当社は労働市場の流動性向上と外国人の積極的活用に努めて参ります(またしても宣伝みたいなオチですみません・・・)。 ©(株)ライフワーク・アドバンス代表 岡田ひろみ